香苗先生の法律コラム

掲載日:2017年01月11日

マンションの住み替えの思わぬ障害とは?

ママの皆さま、明けましておめでとうございます。ありがたいことに昨年はお仕事がとても忙しく、ほとんど休日がなかったので、年末はタイに休養旅行に行ってきました。タイ人の友人から事前に、王様が亡くなってタイは一年間喪中だから白・黒・グレーの服を持ってきて、と聞いていたので、カラフルで目立つ観光客にならずに済みました。現地では黒の布が品切れ状態なのだそうです。

さて、昨年は本業の登記のお仕事の中でも、一筋縄ではいかない案件がいくつかありました。
通常、登記のご依頼については、受託から完了まで1~2ヵ月程度の場合が多いのですが、昨年のある案件は約9ヵ月かかりました。といっても、そんなに特殊な登記ではなくって、皆さまにもあり得ることなんですよ~。。どんな案件だったかご紹介しますね(一部事案の内容は改変します)。

ご依頼主(中村さん)は、築35年のマンションの住み替えをしようとしている年配のご夫婦でした。新居として購入予定のマンションが決まり、現在住んでいるマンションの購入希望者も現れ、あとは契約を…という段階になって、不動産屋さんから、15年前に完済した住宅ローンの抵当権が、今お住まいのマンションにまだ抹消せずに登記されたままになっているから、抹消の手配をしてくださいね、と言われました。
そうなんです、抵当権の登記がされたままでは、マンションは売れません。抵当権は、いわゆる借金のカタだからです。債権者は、万一貸し金の返済が滞った場合、抵当権を付けたマンションを競売にかけて売却し、売却代金から返済を受けることができます。そんな抵当権付のマンションを買う人は通常いません。だから、マンションを売る場合は、マンションに登記されている抵当権を抹消しなければいけないんです。
中村さんは、まず、15年前に住宅ローンを完済した時に、債権者の(株)ニコニコ住販からもらった書類を探しました。「確か、抵当権の抹消手続きに必要だと言ってもらったはず…あ、あった!」と発見しましたので、これを不動産屋さんに見せたところ、「これで手続きできるか司法書士さんに見てもらってください」と言われ、私の事務所にいらっしゃいました。

私:「うーん、残念ながらこの書類だけでは、抵当権の抹消はできません。○○○という書類が足りないのです」
中村さん:「えっっ…では、どうしたらいいんでしょうか?」
私:「債権者の(株)ニコニコ住販に連絡して、足りない書類をもらってください」
中村さん:「でも、(株)ニコニコ住販って、確か、今はもう無い会社なんです。連絡先も分かりませんし」
私:「では、私のほうで、(株)ニコニコ住販について調べてみましょうか」
中村さん:「お願いします」

ということで、(株)ニコニコ住販について調べたところ、(1)社名を5回変えて現在の社名は(株)NIKOJUである、(2)本店を6回引越しし、(3)社長その他の役員は3回入れ替わり、(4)仕事内容も当初とまったく違う会社になっている、ということが分かりました。そして、さらに調査したところ、現(株)NIKOJUは、解散はしていないけれども、事実上解散状態で実体のない会社であることが分かりました。
さて、どうするか。この(株)NIKOJUから書類をもらわないと、通常のやり方では抵当権の登記は抹消できず、マンションは売れませんので、住み替えもできません。
そこでとった手段は、裁判でした。中村さんが原告となり、被告(株)NIKOJUに対して、“抵当権の抹消登記手続きをせよ”と訴えて勝訴判決を得、その判決をもとに抵当権の抹消をするという方法です。そしてこの裁判、通常よりも時間がかかりました。その理由は、(株)NIKOJUは(1)実体がないので訴状を送っても届かない、(2)社長となっている人物が外国人で日本にいない、というハードルがあったからです。実体がないことを証明するために現地調査に3回行き、社長が日本にいないことを証明するために入管に出入国記録の開示請求をしたりして、判決が出るまで約8ヵ月かかり、やっと抵当権の抹消登記ができました。
最初のご相談から、裁判の手続、抵当権の抹消登記の手続きまで、全部お手伝いして約9ヵ月。15年前に(株)ニコニコ住販から書類をもらった時点で抹消登記をしていれば、こんな苦労はしなかったし、余分な費用もかからなかったのに。せっかく現れたマンション購入希望者も諦めて離れてしまいました。
教訓:登記は後回しにしないで、今できるときにやるべし!