香苗先生の法律コラム

掲載日:2014年10月08日

無罪だけれど、賠償金を払うって、どういうこと?

ママの皆さま、こんにちは。先日、「裁判では無罪になったのに、賠償金を払わなくてはならないって、どういうこと?」という質問を受けました。 なるほど、無罪なら、賠償金も払う必要はないんじゃないかっていうことですね。
この質問は、2つのパーツに分けて考えるとよいと思います。1つは「裁判では無罪になった」という部分、もう1つは「賠償金を払わなくてはならない」という部分です。そして、答えのカギは、「刑事」と「民事」の違いです。それぞれ分けてみていくことにしますね。

(1)「裁判では無罪になった」という部分

例えば、住居侵入、窃盗、詐欺、放火、脅迫、傷害、殺人、名誉棄損。これらは「犯罪」ですよ、違反したら刑罰(死刑、懲役、罰金など)が科されますよ、と「刑法」に規定されています。
ある人が、お店で商品を盗んだとして、窃盗罪を疑われていたとします。でも、本当にその人に窃盗罪が成立するのかどうか、それは、裁判で、ほとんどの人が疑問をもたないくらいの高いレベルで証明されない限り、その人は無罪になります。ある人を罪に問うということは、その人に刑罰を科すということにつながります。その人の人権を侵害することになります(だって、強制的に身柄を拘束されたり、罰金を払わされたり、もしかすると死刑になったりするのですから!)。ですから、ある人が有罪であるという裁判をするには、高いハードルが設けられています。
この、ある人に犯罪が成立するのかどうかについての裁判を「刑事裁判」といいます。質問の、「裁判では無罪になった」というのは、その人に犯罪は成立しなかったということを意味します。無罪だということになれば、刑罰が科されることはありません。

(2)「賠償金を払わなくてはならない」という部分

賠償金は、「損害」を償うお金です。賠償金を払うことを、損害賠償といいます。同じお金だけれど、先ほどの罰金とは違います。罰金は、犯罪に対する刑罰のひとつです。
例えば、AさんがBさんを突き飛ばして転倒させ、Bさんが骨折という大怪我を負ったというケースで考えてみます。まず、Aさんに傷害罪という犯罪が成立するかどうかは(1)の問題です。刑事裁判でAさんに傷害罪が成立することが立証されればAさんは有罪になりますし、立証されなければAさんは無罪になります。この刑事裁判の専門は弁護士さんの分野です。
次に、AさんはBさんに治療費などについて損害賠償しなければならないかどうかについては(2)の問題です。AさんはBさんに、そもそも賠償金を払わなくてはならないのかどうかについて、もしくは、払うことになったとしても金額面について、話し合いで折り合いがつかないときは、裁判で解決していくことになります。この場合の裁判を「民事裁判」といいます。民事裁判は、弁護士さんのほか司法書士も専門分野です。
なお、(2)の損害賠償の根拠は、「民法」の不法行為です。民法では、個人間の争いについて規定しています。犯罪とはまた切り離したところでの、個人間の紛争についての問題を扱います。

というわけで、国がある人に刑罰を科すという(1)の話と、個人間での紛争について賠償金を払うという(2)の話は、まったく別次元の話なのです。「裁判では無罪になったのに、賠償金を払わなくてはならない」ということは、刑事裁判で犯罪とはならなかった(刑事責任を問われることはなかった)けれど、話し合い又は民事裁判で、発生した損害について損害賠償はしなければならなかった(民事責任は負うことになった)ということなのですね。